エゾシカレザープロジェクト その1 背景と問題点の整理

クイージは食品関連会社で、特にエゾシカ肉の卸売りが本業……ではありますが、実は食品だけではなく、エゾシカレザープロジェクトも走らせています。実はスタートしてから1年以上も経過しているプロジェクトです。肉と勝手が違い、なかなか進まなかったのですが、やっと目指す方向とそこにいたるまでの問題点が見えてきました。

プロジェクトの発足は、エゾシカ肉を生産する処理場で発生する廃棄物費用の削減からでした。
体重が約80kgのエゾシカの場合、骨と肉(枝肉)は約40kgです。残りの40kgのうち、商品として確立しているのは心臓(ハツ)と肝臓(レバー)で、3kgほど。残りの約37kgは、残滓とも呼ばれ、産業廃棄物として処理場がお金をかけて処分しています。
この廃棄物の処分費用を削減すること、そして、ひとつの命をいただいた以上、隅々まで利用するべきだという気持ち。その第一歩として皮をレザーとして価値を高めて活用しようとしてこのプロジェクトは発足しました。

なお、エゾシカでなく、シカのレザーは一般的に高く取引されています。主に取引されているのはニュージーランド(養殖アカシカ)や中国(養殖キョン)といった輸入品です。手袋やジャケット、小物などで、シカのレザーを使った商品が販売されているのを目にすることもあります。
一方、日本では古来からシカのレザーを利用していた歴史もありましたが、野生のシカの原皮を集め、なめし、製品にすることが様々な理由から途絶えてしまい、現代ではほとんど利用されることはありません。

たとえば、甲州印伝という山梨で販売されている400年の歴史がある伝統的な商品があります。甲州印伝はシカレザーの表面にうるしで模様を書いたものです。当時は国内で捕獲されたシカ皮をなめし、商品を作っていたのですが、現在の甲州印伝に使用されているシカレザーは中国産のシカ、キョンの皮から作られています。山梨県のwebには産地、甲府市と書いてありますが、原材料のシカレザーに関しては山梨県のものではなく、国産でもありません。

エゾシカやニホンジカが増えたことによる様々な被害を食い止めるために、いくつかの地域でシカの資源化が進みつつあり、エゾシカやニホンジカのレザーについても挑戦している地域もあります。ところが、品質が悪かったり、数量が小さく(むしろ試作品か?)、商売になっている、皮の資源化につながっているという話は聞こえてきません。

今までの事例の調査や、1年間のプロジェクトから、問題点を以下のように整理しました。

1.エゾシカ原皮に傷が多い
野生の傷(しかたがない部分もあるが、季節を選べば改善する余地あり)
エゾシカの運搬時につく擦り傷
剥皮工程でのナイフ傷
原皮の保存(キュアリング)方法が悪いことによる腐れ

2.原皮のばらつきが大きい
レザーから商品を効率的に作るためには、なるべく同じ大きさ、厚さの原皮を集めたいが、野生動物で一様にはならない。
雌雄、年齢、季節や地域による品質の差異も大きい(特に厚さが違うが、強度などまだよく分かっていない。)
原皮についている傷に関しても程度にばらつきが大きい。
結果として商品作成時の歩留まりが読めない(1枚のレザーからいくつの商品が作れるか読めない)。

3.なめし方法・技術が確立していない
エゾシカ原皮を適切に(良さを引き出し、欠点を減らす)なめす技術が確立されていない。
シカレザーといえば、セーム革が有名だが、銀面を生かしたレザーもよい。
そもそも、エゾシカ革向きのアイテムも確立していないので、必要ななめし方法もわからない。

4.レザーの数量がそろわない。
サンプルのエゾシカレザーを気に入ってもらい、いざ商品化!となった場合。
在庫がある程度そろっていないと、販売スケジュールに合わない(現状では試作のレザーの在庫しかない)。
さらに、オーダーしても流通段階の中間品もないため、原皮を集める(狩猟)ことからスタートし、非常に時間がかかってしまう。。
もちろん、同じレベルのレザーが入手できることは稀なため、時間がかかる上に品質もそろわない。

5.ニーズの発掘ができていない。
エゾシカ革、やわらかく丈夫で、なにより手触りがここちよい。一方、表面(銀面)に傷はつきやすい。
どういった商品に向いていて、お客さんが購入してくれるか?
前例がない素材であり、シカレザーのニーズがどれほどのものかわからない。
また、現段階ではエゾシカレザーの価格は他のレザーと比較し高い。高くとも買いたいと思える商品やニーズを発掘できていない。

6.原皮の価格が安い
レザーを使った商品は高価です。それは、ブランドによるもの……だけではありません。ひとつの商品を売るための努力や、作るための作業コスト、材料であるレザーをなめす手間など多くの人が関わっています。しかし、その最上流である原皮の価格は思った以上に安いです。原皮は肉を生産する際の副産物であり、そのままでは全く価値がないためです。

次回以降、問題解決の方法やプロジェクトメンバーについてご紹介していこうと思います。

【用語解説】
原皮 剥いだ皮。生ものなのできちんと処理をしないと腐ります。
キュアリング 剥いだ皮を腐らないように加工すること。塩や乾燥が一般的
革 レザー。なめし工程が完了したもの。皮に含まれる腐る成分を取り除き、変質させないように加工を施したもの。

角のペーパーナイフ

 

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