良くある『間違い』 → 山が荒れたから、獣が里に下りてきた

なぜ、鳥獣被害が発生するのか?という理由を聞かれることが多いです。

もちろん、それぞれの場所や、獣害を引き起こす野生動物の種類によって理由は様々です。

ただし、タイトルにあるような、『山が荒れたから、獣が里に下りてきた』という話は、かなり間違った認識だと思います。さらに深刻なのは、この認識を持っている方が、環境ジャーナリスト、環境保護団体、学識者や役人さんにもいらっしゃる、、、という現状です。

さすがに、個別には指摘しませんが、日経○○とか、某市町村のWebなどに、堂々と誤った認識が書いてあってびっくりすることもあります(昔と今の山の写真を比較したり、山の中少し歩けば分かると思うんですが・・・)。

『山が荒れる→獣が里に下りてきた』

そもそも、このロジックはショートカットしすぎで、現在の獣の数、山で生きることができる獣の数、里の状態、などなどの要因をすっ飛ばした話です。

なんとなく、それっぽく聞こえるので、言葉だけが独り歩きしたんだと思います。

 

山が荒れる とは?
まず、『山が荒れる』とは、いったいどういう状態の変化を示しているのでしょうか?『山が荒れる』、そのものが抽象的な言葉なので、人によって想像することが違うと思いますが・・・

1.大面積の皆伐などで、まったく木が生えていない状態が長く続いている。

2.手入れがされていない針葉樹の人工林で、ひょろひょろのスギやヒノキが密生していて、下草などが無い状態。

3.数十年前までは、里山利用(薪炭材利用)をされていたが、現在は放置されて、様々な樹種が入り込んでいる。

こんなところでしょうか?

現代日本では、1.はほとんどありません(皆伐はあります。その後ずっと放置というのがない。)ので、おそらく、2や3のことを言っているんだろうな。と思っています。

※皆伐 ・・・ 木をすべて切る伐採方法。最も経済効率的な施業とされる。伐採跡地には新しく木を植えて、育てる。で、育ったらまた皆伐します。まるで農業みたいな林業ですね。

※薪炭材 ・・・ 薪(マキ)炭を生産するための材、昔の人にとって最も身近なエネルギー源。石炭とか石油、ましてや電気なんて無い時代ですから。

2.に関しては、もしひょろひょろの木ばっかりの状況では、そもそも野生動物が生きていけません。増えません。里に下りてきた野生動物はどこで生まれて増えてきたのか??説明がつきません。
(1も同じですね。野生動物が生息できない環境だったら、里に下りるほどの獣はいません。)

で、3.ですが、これは正解です。里山は、里に住む人々により管理され利用されていました。利用しやすいように道が作られ、適度に伐採(収穫)と育成を行っていた山です。里と山の間にあり、人間が管理していた里山は、人間と野生動物の緩衝帯だった。という言い方もできると思います。

現代では、薪炭をエネルギーとして使うことはほぼありえません。こじゃれた炭火焼居酒屋か、豪邸にある暖炉ぐらいでしょうか?ですので、薪炭材をとるための里山は放置されてしまっているわけです。

ストーブ 
これは薪ストーブ(ペレットも使える)、都会じゃ立派な豪邸でないと設置不能です。

 

放置されると、草や木が生えてきます。こうなると、里山の緩衝帯としての機能はなくなってしまい、逆に野生動物にとって、いい隠れ家になってしまい、里に下りやすくなるわけです。

さて、『山が荒れたから、獣が里に下りてきた』についてですが、唯一の正解は、『里山』が荒れたから、ですね。皆さんの『山が荒れた』のイメージとはだいぶんと違うのではないでしょうか?

これじゃ、『里が変わったから、獣が山から下りてきた』 ではないでしょうか?山が荒れたのではなく、里が弱くなってしまったから獣が山から下りやすくなったが、正解ですね。

でも、『獣が山から下りてきた』 理由は、これだけではないです。次回、その理由について書いてみたいと思います。

 

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